お久しぶりです。あるいは初めまして。私は今、地球探査のために現地に赴いています。研究者の端くれである私が、このような大仕事を与えられるとは思ってもいませんでした。とある高明な教授からこの話を伺った時、大変喜ばしかったです。
さて、私が地球に降り立ってまず目に入ったのは、かつては緑豊かな森だったとは思えないほど荒廃しきった砂漠でした。少なくとも私が見た限りでは、生き物の影は一つもありませんでした。着陸地点から南の方へ移動すると、広大な廃墟が広がる地域にたどり着きました。随分と風化が進んでいましたが、背の高いビルや巨大な電波塔まであり、当時の科学技術がいかに発展していたのかがよくわかります。
しばらくこの廃墟を探索した私たちでしたが、驚くことに、この廃墟には人間の生存者が住んでいました。それも十歳に満たない東洋人の幼女でした。彼女はカワノといい、ずっとこの地で暮らしていたそうです。私たちはカワノに連れられて、巨大な電波塔に登ることにしました。電波塔から見た景色は、綺麗とは言い難いですが、非常に心を揺さぶるものでした。景色に見入っていた私たちですが、カワノは、地球に何が起こったのかを私たちに教えてくれました。
その昔、カワノはここから西の方にある地域で、中学校教諭として教鞭を取っていたそうです。ある日の朝、目覚めるとカワノを含めた全人類が幼女になってしまったそうです。一瞬にして世界中は大混乱に陥りましたが、その日の夜、地球上の全生物はカワノたった一人を残し、忽然と姿を消したそうです。
なぜ地球上の全人類が幼女化し、カワノを除いた全生物が消滅してしまったのかは分かりません。人為的に引き起こされたものなのか、自然的な現象なのか、あるいは我々の科学では証明できない何かなのか。なんにせよカワノは何十年もの間、荒廃した砂漠の世界をたった一人で彷徨ってきたのです。私はカワノのことを非常に不憫に思いました。もし私がカワノの立場であれば、孤独に耐えきれないでしょう。しかし彼女はそうではありませんでした。
私たちは共に帰星することを提案しましたが、彼女はそれを却下しました。彼女はこの理不尽を許容し続け、天から与えられた無限とも言える命を費やし、この星の行く末を見守り続けたいと言うのです。
そういうわけで、私たちはカワノを残して帰星するつもりでした。
追記:私たちに無限の命はありませんが、理不尽を許容し続けるカワノの姿勢を見習うべきなのかもしれません。少なくとも、私たちが突きつけられた理不尽はカワノのものと違い、燃料と食糧が底をつくという極めて人為的で質量的なものですが。