前回までのあらすじ!
私の名前は神宮ねねこ。京都府京都市左京区鞍馬本町に住んでる、どこにでもいるようなごく普通の女子高生。まりこの借金を返済すべく女児社長を殺し、普段通りの平穏な生活に戻ると思いきや、なんとララライブではいなくなった社長の座を賭けた争いが勃発。これは弊社の所属Vの稼ぎを横取りできる大チャンスだから参戦するしかない!しかし何やら同期たちに不穏な動きが⁉︎
︎私、一体どうなっちゃうの〜⁉︎
*
「こんるる〜!ララライブ33期生かわいい担当、流々羽るるだよ〜!今日も張り切って配信していくよ!あ、早速スパチャありがと〜!」
私はそう言いながら、今日の配信を始めた。今日の配信も順調にできそうだ。
社長の座をかけた争いが始まる前は週に何回か配信を休んでいたが、ここ最近の私は毎日やっている。というのも、弊社の規定では、次の株主総会のときにチャンネル登録者数やスパチャなどが一番多いVが次の社長になれるのだ。スパチャ女王の名を持つ私であれば、よっぽどのことがない限りこの争いで負けることはないだろうが、油断は禁物だ。みんな張り切っているので、その勢いに負けてはいられない。
私が女児社長を殺してからというものの、巷では女児社長が失踪したという話題で持ちきりだった。もちろん警察はこの事件について調査しているが、女児社長がどうなったのか、その足取りを掴むことはできていないようだった。
配信を始めてしばらくしたころ。突然、ピンポーンとインターホンの音が聞こえてきた。
「みんなごめん。誰か来たみたいだから、ちょっと出てくるね」
私はそう言って、席を立った。
インターホンの画面を見てみると、よく見知った二つ結びのおさげでメガネをかけた人が映っていた。彼女はララライブの同期、更田さららの中の人だ。いつも通り、うさぎ肉を配りにきたのだと思い、私は躊躇いもなく玄関のドアを開けた。
「こんばn……」
私がドアを開けた直後、銃弾が私目掛けて飛んできた。私は咄嗟に身体をひねって避けたが、危うく私がうさぎ肉にされるところだった。私は銃弾を撃ってきた更田さららの中の人に言った。
「急に何するのさ!この銃弾、私じゃなきゃ見逃してたわよ⁉︎」
「逆になんで避けてんだよ教えはどうなってんだ教えは」
更田さららの中の人は、逆ギレしながら再び銃を撃ってきた。私はそれを避けた。二発目なので慣れたが、このまま撃たれ続けると銃声がご近所迷惑になる。ここは変身して一気にかたをつけたかったが、彼女はそんな隙を与えてはくれなかった。
仕方ないので私は咄嗟に、床に落ちていたニンジンを拾った。そして更田さららの中の人に思いっきりぶっ刺した。ニンジンは彼女の額の骨を割り、血と脳漿を撒き散らしながら深いところまでぶっ刺さった。更田さららの中の人はそのまま意識を失ってバタンと倒れてしまった。
「ふう……危ない危ない☆」
私は顔についた返り血を腕で拭った。
更田さららの中の人から溢れ出す血はみるみる広がり、玄関が汚れてしまった。
それにしても、まさか更田さららの中の人がこんな強行手段に出るとは思っていなかった。彼女とは同期としてそこそこ昔からの繋がりがあったが、こんな堂々と人を殺そうとするような人ではなかった。つまり今、目の前で起こった事は、社長の座をかけた激戦が生命の存続に関わるレベルのやばさになっているということを意味していた。
*
次の日、今日も誰かが来たと思ったら、私の同期である白野ノノの中の人が、包丁を持って私に襲いかかってきた。私はそんな彼女を、傘立てに刺してあった、はかぶさのけんで斬殺した。
また次の日、鈴鈴鐘りんの中の人が日本で一番大きい銅鐸を担いで私を撲殺しようとしてきたが、私は日本で一番小さい銅鐸で彼女を撲殺した。
またまた次の日、不破フワの中の人が頭の中にダイナマイトを入れてやってきたが、私は彼女が近くに来る前にボウガンで射殺した。
そして、気づけばララライブの同期は全員、私の食料になっていた。
さすがに短期間でこれだけ殺してしまうのはまずいのでは?と思った。
一般人を数名殺したところでいくらでも揉み消せるが、私の同期たちはVtuber界の中でもトップに君臨する超大物なのだ。その超大物たちが連続で失踪したとなると、女児社長のときの比ではないほどの騒ぎに発展するだろう。
まあ、今のところ証拠隠滅はきちんとできているので、私が吊し上げられることもないだろう。あまり気にしすぎるのも良くない。
そう思って冷蔵庫から取り出したストゼロを開けようとしたその時、携帯から着信音が聞こえた。この音はまりこからのメッセージではなかったが、一応確認すべく携帯を開いた。
なんとそのメッセージは、死んだはずの女児社長から送られてきたものだった。その事実に私は驚愕した。
メッセージの内容はとてもシンプルだった。
『今すぐ来てくれ、ララライブ本社に』
現在時刻は午後十時。人を呼び出す時間としてはどうかと思うが、もし本当に女児社長が生きているとしたら大変だ。私は開けかけたストゼロを冷蔵庫に戻して、胃酸やその他諸々と共にステッキを吐き出した。そして、ご近所迷惑にならない程度の声で、
「変身!」
と叫んだ。その瞬間、私の身体全身が発光したかと思うと、ピンクの魔法少女的衣装に包まれた。
私は、数日前そこらへんから拝借して部屋に放置していたスケボーに乗り、音速でララライブ本社に向かった。
ララライブ本社には一瞬で着いた。道中、トンネルの数カ所を破壊した気がするが、いつものことなので気にしてはいけない。
本社の広い社長室の奥には、見覚えのあるゲーミングチェアがあった。そして、それに座っている人物は、眼下に広がる変わり映えのない大津京の街明かりを眺めているようだった。
私はその人物の元へ歩みよった。それに気づきこちらを振り向いたその人物は、間違いなく女児社長だった。
「やあ、元気にしていたかい?神宮ねねこ」
女児社長は、自身を殺した私と対面したにも関わらず、憎しみも恐れもない普段通りの調子だった。
「あなた、なんで生きてるの?ちゃんと殺したはずなんだけど」
「ああ、一度殺されたさもちろん、君に。しかし見てほしい、これを」
そう言った女児社長は、手のひらを見せてきた。急に何事かと思ったが、その差し出された手のひらには生命線が2〜3本あるのを見て、全てを察した。
「これって……」
それは女児社長が残機を持っている――つまり完全に殺すのは一筋縄ではいかないということだった。
「まあ、言うべきことではないんだけどね、あまり他人に。それにしても久しぶりだったよ、残機を減らされるなんて。八十年ぶりくらいだろうか。だから少し時間がかかったんだよ、復活するのに。けど、私は完全には死なないよ。数回殺された程度では」
「……じゃあさ、その残機を全部殺せばいいってことよね?」
私は女児社長を睨んだ。
「さあどうかな、それh」
女児社長が言い切る前に、私は一瞬で距離を詰め、彼女の頭をステッキで叩き落とした。そして頭と身体が分離したそれがちゃんと死んでいることを確認した。
その直後、
「……さあどうかな、それは」
背後から女児社長の声が聞こえてきた。思わず振り向くと、そこには来客用の机に足を組んで座る女児社長がいた。
「いくらでもあるさ方法なんて、残機を増やす。つまり実質私は滅びぬ、何度でも蘇r」
女児社長が言い切る前に、私は彼女の目を指で潰した。
「目がぁー!!!」
女児社長は目を押さえたまま机から転げ落ちた。私はそれを見下ろし、言った。
「映画の名台詞叫ぶじゃ済まないことわかってるの?あなた、前みたいに私たちが稼いだ金を横取りするつもりでしょう?それならあなたを完全に殺さないといけないわ」
そして、床を転げ回る女児社長にステッキを刺して殺した。
しかしその直後、
「代わりはいくらでもあるが、無意味に潰されるのは困るよ」
また背後から女児社長の声が聞こえてきた。私が振り向くと、そこには観葉植物の上にゴリ押しで座っている女児社長がいた。
彼女は観葉植物の上から不安定な体制で、私を見下ろして言った。
「諦めなさい。私は復活する、何回殺されようが。弊社の社長だ、私は。これからも貰うよ、君たちの稼ぎを」
私は女児社長を睨んだが、確かに彼女の言う通り、これ以上暴力を振るっても意味がないようだった。だから質問した。
「……なんであなたはそこまで金に執着するの?」
「知りたいかい?」
「ええ」
やがて女児社長は語り始めた。
「私は集めたいだけなんだ。金じゃなくて福沢諭吉を」
「どういうこと?」
「推し活だよ要するに。私は夢女だ、福沢諭吉の。だから集めているんだよ、一万円札を」
私は女児社長の言葉に、何か嫌悪感を抱いた。
女児社長は続ける。
「150年ほど前だったか、あれはたしか。私は初めて読んだんだよ、学問のすゝめを。感動したよ私はとても。そしてとても好きになった、福沢諭吉を。だから私はなったんだ夢女に。だがしかし、もう死んでしまった彼は。それからしばらくして知ったんだ私は。福沢諭吉が一万円札になることを。私は決意したよ、日本中の福沢諭吉を集めることを。」
「なにそれ...たかがそんなことのためだけに私たちから金を横取りしていたの?」
女児社長の言葉から感じられる嫌悪感はさらに増した。これは明らかな地雷だった。
だがその瞬間、
「たかがそんなことだと?」
女児社長の顔から笑み消えた。
「分からないのか貴様は⁉︎私の人生そのものなんだ、これは!貴様にはいないのか、推しが!」
女児社長は怒り狂っていた。こんな女児社長は見たことがなかった。
「推しなんていないわよ。だって、私は小さいときからいつも推される側だったもの。あなたのそれは理解できないわ」
「……そうか、つまり貴様はそういうやつなんだな」
女児社長は、ゴリ押しで座っていた観葉植物からゲーミングチェアに飛び乗り、そこに座る首無し死体をどけた。そして、
「貴様に資格はない、私の推し事の邪魔をする!」
そう言ったかと思うと、ゲーミングチェアの左右の肘置きが変形してガトリング銃が出現した。
「死ね!」
ガトリング銃から大量の銃弾が放たれ、その弾幕が私を襲った。
私は当たり判定を極限まで小さくして、弾幕を低速移動で避けながら女児社長との距離を詰めようとしたが、全てを避けきることはできなかった。銃弾は身体の所々をかすり、耳のところどころから血が出てきた。
「うっ」
何十本もの針に刺されたような痛みが、耳を襲った。こんな高密度の弾幕を浴びせられては、いくら当たり判定を小さくしてもピチュるのは時間の問題だった。一旦体制を立て直したいが、この部屋に遮蔽物になるものは一切ない。
このままやられっぱなしでは私の耳がもたない。
「……あれを使うしかないようね」
あれは凄まじい破壊力を持つが、使うとステッキにかなり負担がかかるので、普段使うことはない。いわば切り札。
私は全身全霊でステッキに力を込めた。ステッキの先から出る白い光は私を包み込み、飛んでくる銃弾を全て消した。
道は開けた。私はステッキを構え床を蹴り、女児社長との距離を詰める。
そしてその技の名を叫んだ。
「君に届け!リリリンビーム‼︎」
女児社長が間合いに入った瞬間、私は最大の30%くらいの限りなく光速に近い速さでステッキを振り下ろした。と同時に、強い光と爆発音と衝撃波と砂埃が発生し、私の視界を奪った。
やがて、光が収まり漂う砂埃も薄くなってきた。
床は盛大にえぐりとられ、数階下まで穴が空いていた。天井も穴が空いたりヒビが入ったり、壁のガラスは衝撃波で全て割れたり、割とやばそうな感じになっていた。そこらじゅうに瓦礫も落ちていた。そんな悲惨な状態の中に、かつて女児社長だったかもしれない赤いものと、ゲーミングチェアの残骸らしきものが落ちていた。
「……ふう、これで一件落着☆……って言いたいところだけど、あいつ、何度でも蘇るしなぁ」
「そのとおりさ」
言ってたら女児社長は瓦礫の上に座っていた。
「ひどくないかい?ゲーミングチェアを破壊するのは、私ならまだしも。あれ貰ったんだけど、更田さららに」
「だったら上等よ」
私はステッキを構えた。
その時、急に私の変身が解けてしまった。
「え、なんで?」
あまりにも唐突で驚いたが、原因はすぐ分かった。
ステッキを見ると、先についている宝石はヒビが入り、色がくすんでいた。どうやら、さきほどのリリリンビーム(物理)の反動に耐えきれなかったようだ。限りなく光速に近い勢いで振ったので仕方ないが、このキャピタルジュエルと呼ばれる宝石こそが魔法少女の力の源泉なのだ。つまり、これが壊れると私は魔法少女になれない。
「これはこれは、随分派手にやりましたね」
突然、入り口の方から低めの女性の声がした。振り返ってみるとそこには、白いスーツを着て背中にアサルトライフを背負い、ベビーカーを押す女性が立っていた。
「これじゃあ、御社の株券は下がりますよ」
女性はそう言い、メガネを押し上げ、するどい目線をこちらに向けた。
それを受けた女児社長は言った。
「……大主要筆頭安定株主か、あなたは」
「え、あの人が株主?」
私は少し驚いた。というのも、大主要筆頭安定株主の話は前々から聞いていたが、株主と言えば自転車爆走おじさんみたいなイメージが強かった。
「その通りです。この方こそが大主要筆頭安定株主です」
女性はそう言って、ベビーカーの日除けを上げた。中には生後数ヶ月ほどの赤ちゃんが乗っていた。赤ちゃんはその濁りのない瞳でこちらを見てきた。
『そうだ。私が大主要筆頭安定株主だ』
赤ちゃんは、私たちの脳内に直接語りかけてきた。見た目に反して、おじさんのような声だった。
『すまないねえ。この体じゃあ、上手く喋れないんだ』
大主要筆頭安定株主は、
「ばぶばぶ」
と言った。大主要筆頭安定株主の姿や言動はただの赤ちゃんのようだ。ただ、その雰囲気は女児社長に似たものを感じた。
大主要筆頭安定株主は言った。
『ところで今、御社の所属V同士で社長の座をかけた争いが繰り広げられているらしいね。あれ、今すぐやめさせてほしいな。なんせ死人が出てるらしいから』
私はその言葉を聞き逃さなかった。
「ということは、再び女児社長が弊社の社長になるってこと⁉︎それは認めないわよ」
『安心してくれたまえ。次期社長については、次の株主総会でゆっくり話し合おうじゃないか。』
「じゃあ私が務めよう。臨時で社長を、次の株主総会まで」
大主要筆頭安定株主が次期社長について検討しようとしてるのに、女児社長がさらっと社長になろうとしてきたので、私はかなり腹が立った。
『あ、あと神宮くん、魔法少女ねねこちゃん宛に逮捕状が出てるよ』
「え……?」
急に言われたことに対し、思考が追いつかなかった。どういうことなのか。確かに私は殺人をしたけど、どれも証拠隠滅はばっちりだった。というか、なんで大主要筆頭安定株主が魔法少女ねねこちゃんのことを知っているの……?
私がそう考えているうちに、
『それじゃあ私たちはこれで失礼するよ。泊さん、行こうか』
「はい。それでは失礼いたします」
泊と呼ばれた女性は、ベビーカーの日除けを下げた。そして大主要筆頭安定株主は去っていった。
なんだかよくわからないことになってきたと思っていると、今度は暗い空からヘリコプターが現れ、このビルに急接近してきた。ついでに、私が立っている床に青白く光る魔法陣が現れた。
「次から次へと一体何なの!?」
「どういうことだこれは⁉︎」
ヘリコプターからはプロペラの轟音とともに、普通の人では聞こえない周波数の声が聞こえた。
「魔法少女ねねこちゃん!お前を、魔法少女の十のお約束の一つ目のお約束を破った罪で逮捕する!」
どうやらこのヘリコプターは、魔法の国から来たようだった。
「神宮ねねこ!やったんだ、一体何を!」
女児社長は怒鳴るように聞いてきた。
「……もしかして、あれのことかも」
きっと、私が同期を殺したことが魔法の国の人たちにバレたのだ。証拠隠滅を徹底していても、魔法の国の人たちの目を欺くのには失敗したようだった。というかそもそも、魔法少女の十のお約束とか存在自体ほぼ忘れていた。
そうこうしているうちに魔法陣の光は強さを増していき、やがて私の全身を包み込んだ。